振り向けば、息を上がらせたフェイとアンネッテが目に入る。
どくん、とセリシアの心臓が大きく脈打つ。
もうすぐで、フェイも死ぬ。
そう考えると、胸が締めつけられたような思いになる。
けれどその理由が、分からなかった。
「邪魔はさせないよ」
パチン、とディオンはフィンガースナップをする。
刹那――黒い霧がフェイとアンネッテの体を縛りつけ、動けないようになる。
まるで地面が足を掴んでいるかのように、一歩進むことすら出来ない。
「人工精霊が目覚めるのを、そこで眺めておけばいい」
月は止まることなく、欠けていく。
「セリシア! もし人間が消えてしまえば、クレタスで出会った海の女神(ネレイド)はずっと悲しむことになるんだぞ!」
「……ッ」
「ネレイドだけじゃない。人間と仲良く過ごしていた妖精は、みんな悲しむ! それにセリシア、お前は優しい心を持った人々の姿を、見てきたはずだ!」
だから、と続けようとしたが、黒い霧がフェイの口を塞ぐ。
アンネッテの口も塞がれた。
「それ以上のお喋りは、許さないよ」
口は笑っていたが、ディオンの目は笑っていなかった。


