「僕さ、実は精霊だったときの記憶を、覚えているんだ」
二人は目を見開けた。
「だったら一体どうして……人間のために自らを犠牲にしたと知っていて、そんな計画を…!」
「セリシアのためさ。全ては、誰よりも、何よりも愛しい、セリシアのために」
「愛しい、だって? けれど、お前たち二人は……」
「血の繋がった兄妹(けいまい)、と言いたいんだろう? 僕もはじめは不思議だったよ。どうしてこんなにもセリシアが愛しいのか。けれど、精霊だったときの記憶を思い出して、納得出来た」
口の端を吊り上げて、ディオンは笑う。
「僕とセリシアは精霊だったとき、恋人同士だったんだよ」
とても愛し合っていた、二人の精霊。
森の中で置き去りにされた幼き人の子を、我が子のように、大切に育てていた。
しかしそんな幸せな日々は、ある日突然、一変してしまった。
「闇獣は人の子を好物とする獣でね。……ソイツに、襲われたんだ」
我が子のように愛を注いできたその子を、彼女――セリシアが、庇った。
鋭い爪で体を突き刺され、その場に倒れた愛しい彼女。
すぐに助けようとしたが、傷が深すぎて、治癒魔法がきかなかった。
そして最後に彼女は微笑んで、淡い小さな光の屑となって消えてしまった。


