「間に合わなかったか……」

夕焼け空の下(もと)、二人の者が、焼け落ちた建物を見て呆然と立ち尽くしている。
レクスの者たちの死体が、辺り一面に転がっていた。

フェイとアンネッテがセヴェールに着いたのは、月食の起こる、運命の日。
双子は研究所を破壊するに違いない、と考え、セリシアの過去で視たのを頼りに不気味な森を登って行ったが、一足遅かった。

「ごめんなさい。私が倒れなければ、もっと早く此処に来ることが出来たのに……」

悔しそうに唇を噛み締め、眉を寄せる。

「自分を責めなくていい、アンネッテ。まだ、時間は残っている。急いであの家へ行けば、間に合うはずだ」

…そうだね、とアンネッテは答える。
そして二人は、来た道を戻って行く。
十年前、同じように幼き双子が此処を通ったことを、フェイは思い出した。

『つい最近僕らの存在を知ったばかりのお前に、一体何が分かる』

『ただ苦痛に耐え続けた僕らの気持ちなんて、お前らに分かるはずがない!』

ディオンとセリシアの言葉が、脳裏に響く。
ぴたりと立ち止まった。
くそ! と小さく叫び、勢いよく左の拳を大木へとぶつける。
アンネッテはただ、その姿を見つめた。

ふわりと吹いた冷たい風が、二人の頬を撫でる。
そしてフェイは、再び進みはじめた。

そんな彼の姿を、ある一人の者が遠くから見ていた。
その者のすぐ傍に、オッドアイを持った黒猫が座っている。