パチン、とフィンガースナップをした。
黒い霧が再び集まり、四匹の狼となる。四匹ともオッドアイだ。
二匹はディオンのもとへ寄り、残りの二匹はセリシアのもとにいる。

そしてセリシアもまた、短剣を抜いた。

「僕はこの研究所の核となる部分を破壊しにいくよ」

ディオンが言う。

「じゃあ僕は、研究途中のモノや実験器具を破壊する」

セリシアが言った。
二人は、その建物の中へと足を踏み入れて行き、二手に別れた。

セリシアは建物の中にいる研究者たちを次々と殺し、研究室の中にあるいくつものガラスケースを割っていく。
液体が溢れ出ると共に、得体の知れない生物のような塊(かたまり)が流れ出る。

漆黒の狼がソレを踏み潰した。
惨憺(さんたん)たるその光景を無心に見つめ、セリシアはその研究室を後にする。

「……此処は」

ある一室の前で、セリシアは立ち止まった。
ギィ、と音を立て、その扉を開ける。
目に入ったのは、小さな窓がひとつしかない、埃っぽい狭い部屋。
この部屋こそ、二人が閉じ込められていた場所。

床には血の痕(あと)がある。だいぶ古いものだ。

「あの男……此処で殺されたんだ」

十年前の記憶が、鮮明に思い出される。
ぐっと短剣の柄を握る手に力が込められた。

「――父さん、僕は……」

言いかけた、その刹那――遠くの方から、爆発音が聞こえてきた。次々と、爆発する音が聞こえる。

「……ディオンか。僕も、さっさと破壊していかないと」

最後にその小さな部屋をちらりと眺め、セリシアは去って行った――。