「魂も魔力も、全て頂こう」
ディオンが言った、その刹那――黒い霧は飛竜(ワイバーン)になる。ワイバーンの瞳は、両方ともスカーレットだ。依然、二人の体は黒い霧を纏っている。
「僕らの中で眠る漆黒のワイバーンも、きっとこんな姿なんだろうね」
クスクスと笑いながら、ディオンは左手で右目に触れた。
「さあ、レクス(人間)狩りのはじまりだ」
セリシアが呟くやいなや、ワイバーンの体からいくつもの蛇のようなものが伸び出てくる。
そして白衣を着た者たちに襲い掛かり、蛇のようなものは、口から体内へと入っていった。
レクスの者たちは、呻(うめ)く。
それを面白そうにディオンは見つめ、セリシアは冷たい眼差しで、見つめていた。
「十年前の、お返しだよ」
どう? 苦しい? とディオンは訊く。
首から掛けている太陽の石(サンストーン)のペンダントを、強く握り締めた。
「先へ進もう、セリシア。三大掟を破った奴らに、〝死〟という罰を与えないと」
「そうだね、ディオン。邪魔者を、殺しにいこう」
苦しんでいる者たちには目もくれず、二人は足を進めて行く。
次から次へとレクスの者たちはやって来るが、誰一人双子に触れることすら出来ず、ワイバーンの餌食となっていく。
「ああ、此処か」
森の開けた場所に出ると、少し先に大きな建物が目に入る。
「人工精霊の研究資料……全て、消さないとね」
ワイバーンが霧へと戻る。
繋いでいた手を、二人は離した。


