* * *
誰も近寄ろうとはしない、その不気味な森のふもとに、二人の者がいた。
「漆黒のワイバーンが目覚めるのは、今日の夜。もうすぐで、僕らの願いが叶うんだ」
右目がスカーレットである少年――ディオンが言った。
「……そうだね」
少女――セリシアが答える。
何が気に入らないのか、ディオンは少し唇を噛み締め、眉を顰(ひそ)めた。
そんなディオンの様子に気付き、どうしたの、とセリシアは訊く。
「……何でもない。さあ、行こうか」
十年前のあの日と同じように、二人は強く、お互いの手を握り締める。
森の中へと足を踏み入れて行った。
森を登って行けば行くほど、周りの景色は、さらに不気味さを増していく。
「いたぞ!」
男の声が、森の中に響いた。
次々と二人に近付いてくる足音が聞こえてくる。
白衣を着た者たちが、姿を現す。中には女もいた。
「なんとしても、捕まえるんだ!」
「……あんなこと言ってるけど、どうする? セリシア」
「もちろん、殺すに決まってる」
だよね、とディオンは笑う。
黒い霧が、二人の体に纏(まと)いはじめた。


