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誰も近寄ろうとはしない、その不気味な森のふもとに、二人の者がいた。

「漆黒のワイバーンが目覚めるのは、今日の夜。もうすぐで、僕らの願いが叶うんだ」

右目がスカーレットである少年――ディオンが言った。

「……そうだね」

少女――セリシアが答える。
何が気に入らないのか、ディオンは少し唇を噛み締め、眉を顰(ひそ)めた。

そんなディオンの様子に気付き、どうしたの、とセリシアは訊く。

「……何でもない。さあ、行こうか」

十年前のあの日と同じように、二人は強く、お互いの手を握り締める。
森の中へと足を踏み入れて行った。
森を登って行けば行くほど、周りの景色は、さらに不気味さを増していく。

「いたぞ!」

男の声が、森の中に響いた。
次々と二人に近付いてくる足音が聞こえてくる。

白衣を着た者たちが、姿を現す。中には女もいた。

「なんとしても、捕まえるんだ!」

「……あんなこと言ってるけど、どうする? セリシア」

「もちろん、殺すに決まってる」

だよね、とディオンは笑う。
黒い霧が、二人の体に纏(まと)いはじめた。