( 精霊だったときの記憶さえ思い出せば、双子の考えも変わるかもしれないわね )

よし、これで完成、と続けて、グウレイグはそのいかにも苦そうな液体を、アンネッテに少しずつ飲ませる。
全て飲み干し、アンネッテは目を開けた。
まだ少し、息は乱れている。

「アンネッテ、大丈夫か? ……禁忌だとは知らずに、魔法を使わせて悪かった」

アンネッテは左右に首を振り、ただ微笑むだけ。
けれどそれは、気にしないで、と言っているかのようだ。
そしてまた、目を閉じる。

( 今からこの子の体に薬を塗るから、あなたは後ろを向いていて )

先ほど飲ませたものとは別で、今度は少し粘り気のある液体をグウレイグは手に取る。
それをアンネッテの首に塗った。
フェイは言われた通りに、背を向ける。

( あなた、本当は気付いているんでしょう? )

ふと、彼女が訊いてきた。
何を? と返す。

( 双子を殺さずに、人工精霊だけを消すなんて、不可能だということよ )

フェイの指が、ぴくりと動いた。
ディオンの中には人工精霊の精神(心)があり、セリシアの中には本体(からだ)がある。
そして二人は一心同体でもあり、どちらかが死ねば、もう片方も死ぬのは必然。

( 人間を守るためにあなたが出来ることは、双子を殺す――ただそれだけよ )

ぎり、とフェイは歯を食い縛る。

 セリシアを殺すなんて、出来ない。
 けれどこの手を赤く染めなければ、この世界に住む全ての人々を守ることなんて出来やしない。
 だったら、俺は――……。