簡単に見つかってしまわないように、二人は森の中を走っていた。
しとしとと降っていた雨は、いつしかザァザァと音を立てている。
その冷たい雨が、二人の体温を奪っていった。

「もっと、遠くへ逃げないと……。じゃないと、奴らに捕まってしまう」

ディオンが言った。

「そんなの、嫌だよ」

息を切らしながらも、必死に二人は走り続ける。
セリシアが泥に足を滑らせ、勢いよくその場に倒れ込んだ。
強く手を握り締めていたせいもあり、ディオンもまたつられるように倒れる。

「大丈夫?」

差し伸べられた手を握り、ふらりとセリシアは立ち上がる。
サファイアブルーとスカーレットのオッドアイが、虚ろだった。
先ほど人工精霊の力を使ったせいもあり、もう体力は限界なのだろう。

ディオンはセリシアをおぶり、再び走りはじめる。

「僕が、君を守ってみせるから」

セリシアは答える気力もなく、ただ目を閉じた。
しばらく走り続け森をようやく抜けようと、雨は降り止むことを知らなかった。

古びた廃家が目に入る。決して人が住めるというものではないが、十分に雨を凌(しの)げる。
外から見えないように、廃家の奥へと足を踏み入れ、ずぶ濡れになった外套(がいとう)を脱がせ、壁に背を預けるように、セリシアを座らせた。
うっすらと、彼女は目を開ける。

「雨が止むまで、此処で休もう」

セリシアがこれ以上冷えないように、ディオンは抱き寄せる。