世界の終わりに、君は笑う




「平和に……過ごせると思ったのに」

 希望を持つなんて、無駄なことなのかもしれない。
 ああ、だったら、もう一度セリシアの笑顔が見たいという願いも、強く願えば願うほど、虚しくなるだけなのかな。

強く、唇を噛み締めた。

「ディオン、火傷の奴に逃げられた」

セリシアが、家の中へと戻って来る。あの狼は、消えていた。
他の奴らは死んだよ、と言いながら、ディオンの隣にいく。

「ねえセリシア、僕の代わりに、君が彼女の瞼を閉ざしてあげて。僕の手は、血で汚れているから……」

「分かった」

静かに、セリシアは彼女の瞼を閉ざす。
ディオンは少しの間、血に染まった自身の手のひらを眺め、そして立ち上がった。
洗い流してくる、と言って、その場を離れる。

小さな家の中を見渡せば、殺された数人のレクスの者たちが倒れていた。
充満する鉄の匂いが、ディオンを不快にさせる。

「奴らがまたやって来る前に、さっさと此処から逃げよう」

血を洗い流したディオンはセリシアのもとへ行き、脱げていたフードを被らせる。
そして、手を握った。

「……さようなら」

最後に、ディオンは小さく呟いた。
セリシアの手を引いて、血の海となった家から出る。

分厚い灰色の雲に覆われた空から、ぽつぽつと雨が降りはじめていた――。