僅かに射し込む月光だけを頼りに、二人は歩きながら森を下りて行く。

「足、大丈夫?」

ディオンが訊いた。セリシアはこくりと頷く。
二人とも、裸足だった。
小枝などを踏んでしまったせいで、足の裏は切り傷だらけだ。
それでも、痛いとは言わなかった。

「……ディオン」

ぽつりと、セリシアが言う。
どうしたの? と顔だけを振り向かせた。

「獣の唸り声が聞こえる」

ディオンは立ち止まり、耳を澄ませる。遠くの方からだが、セリシアの言う通り、微かに咆哮する声が聞こえてきた。
ぎゅ、とさらに強く、手を握り締める。

「……急ごう」

セリシアに合わせて歩いていたディオンだったが、彼女の腕を引いて、走り出す。
そこからは足を休ませることなく、二人は走り続けた。

「やっと……抜けられた……」

紺碧(こんぺき)の空が明るくなってきた頃に、ようやく足を止める。
肩で息をしながら、ディオンは呟いた。
くいくい、とセリシアが腕を引く。

「あそこに、赤い屋根の家があるよ」

男の言っていた通り、街外れにある丘の上に、ぽつんとひとつだけ家がある。
二人が今いる場所からは、かなりの距離だ。

行こう、とセリシアが言う。