「十年後に、君たちの中で眠っている人工精霊が目を覚ます……。きっと他の研究者たちは、必死になって君たち二人を捜すだろう。特にセリシアを、先に捕まえようとする。……だからディオン、君がセリシアを守ってあげるんだ」

…わかった、と無意識に答えていた。
男は、二人にフードを被らせる。

「君たちが魔力をうまく使いこなせるようになれば、その漆黒の紋章とスカーレットの瞳は隠すことが出来るだろう」

そのときまで、捕まっていなければいいのだが……、と男は胸の内で呟く。

「どうして、僕たちを逃がしてくれるの?」

セリシアが、訊いた。

「これ以上、君たちを傷つけたくはないんだ」

切なく、男は微笑む。

「さあ、早くお逃げ。この時間帯はみんな眠っている。気付かれないように、静かに、外へと逃げるんだ」

「……セリシア、行こう」

うん、と彼女は頷く。
強く、お互いの手を握り締めた。
最後に男をじっと見つめ、二人はその小さな部屋から出て行った。

 ……たとえこの命を犠牲にしようと、君たちがこれ以上傷つかずに済むのなら、それでいい。

「さようなら、愛しき子――」