「ディオン!」

駆け寄ろうとしたが、フェイの足元に剣が突き刺された。ディオンが投げたのだ。
どうにか立ち上がってはいるものの、ふらついている。

「目覚めるときが近付いているせいで、おそらくディオンの中で人工精霊の力が暴走しはじめているんだわ!

アンネッテが言った。
今、ディオンは隙だらけだ。

「このままじゃ、逆に僕が殺(や)られる……」

そんなことなど、許されない。

なおも呼吸を乱しながら、パチン、とフィンガースナップをする。
黒い霧が集まり、オッドアイを持った大型の鴉(からす)となる。

「僕らの計画は……必ず成功させる」

鴉に飛び乗り、苦しそうに、けれど冷たい瞳で、二人に言い放った。

「待て、ディオン!」

その言葉も虚(むな)しく、鴉はその翼を羽ばたかせ、大空の中に浮く。

「セリシア。今、君のもとへ行くから――。全てが始まった場所で……全てを終わらそう」

ディオンを乗せた鴉は雄叫びをあげ、空の彼方に飛んでいった。