「ディオン、人間が消えてしまえば悲しむ妖精もいる! それはクレタスのときに、お前も知ったはずだ!」
「けれど人間が存在し続ければ困る妖精だっている。……人工精霊は妖精たちからも厭(いと)われる化けモノだ。人間が消えない限り、今後も掟を破る者が出てくるに違いない」
「……お前はクレタスで赤ん坊を助けた。それは、お前の心の中で何かが変わったからじゃないのか!」
ディオンは、口を噤(つぐ)んだ。
もしかしたら、いけるかもしれない。
ディオンもきっと、少し揺らいでいるんだわ。
アンネッテは胸の内で呟いた。
「ディオン!」
フェイが叫ぶ。
そんな計画などやめるんだ、という瞳で、じっと見つめる。
ディオンは、強く唇を噛み締めた。
「ディオ……」
「黙れ!」
もう一度呼び掛けようとしたが、遮られる。
「〝人間を消す〟――それが、僕らに与えられた使命だ。その使命のために、僕らは生まれて来たんだよ!」
そして妖精や精霊のために――この世界のために、双子は自らの命を犠牲にして、漆黒のワイバーンを消さなければならない。
それが、哀れな双子の定め。
「毎日のように実験台にされ、窓一つしかない狭い部屋に閉じ込められる。希望なんてもの、ありはしない。そんな中、ただ苦痛に耐え続けた僕らの気持ちなんて、お前らに分かるはずがない!」
剣を握る手に、力を込める。
再び勢いよく襲い掛かろうとした、そのときだった。
「……ッ!」
どくん、と心臓が大きく脈打つ――と同時に、突き刺さるような激しい痛みが、胸の中を襲った。
こんな、ときに……。
剣を地面に突き刺し、胸元を握り締めながら、その場に膝をつく。
息も上がり、額から汗が流れはじめた。
ガハッ、と勢いよく、大量の血を吐き出す。