世界の終わりに、君は笑う




「アイツが魔力を持っていないだと? ふざけたことを言うのも大概にしろ、フェイ・ブランデル」

お前は本当に、何ひとつ気付いていないんだな、と続けた。

「いい加減その化けの皮を剥がせ! 双子の片割れ――〝Ⅰ(ファースト)〟!」

エルヴィスが叫ぶ。

まさか、ディオン――……。

胸の内で呟き、アンネッテは灰色の煙の方へと目を凝らした。

「本当に、お前の声は耳障りだ」

聞き慣れた声が、煙の中から聞こえた。
刹那――灰色の煙を吹き飛ばすかのように、冷たい突風が吹く。

プラチナブロンドの髪が、靡いていた。
俯いているせいで顔は見えないが、恐ろしい気配を、痛いほど肌で感じる。

風が、おさまった。

「あともう少し隠し通せば、何も問題なく、月食の日を迎えられたというのに」

言いながら、ディオンは顔を上げる。
フェイとアンネッテは、息を呑んだ。

サファイアブルーとスカーレットのオッドアイ。
額には、ワイバーンを表す漆黒の紋章――。
ディオンは両手の手套(しゅとう)を外し、精霊使いの証を隠していた包帯も外した。