「此処ならもう大丈夫だ」
王宮を去った後、そのままアウリスから出て行き、ケルピーと別れた所に戻った。
木に背を預けるように、アンネッテを座らせる。
「ん……此処は……」
うっすらと、目を開けた。
「ケルピーと別れた場所だ」
フェイが答える。
「そっか。……あれ、ディオンは?」
その言葉に、え? と辺りを見渡す。
先ほどまで傍にいたディオンの姿が、どこにも見当たらなかった。
一体どこへ行ったんだ?
「…森の中から、ディオンが持つ精霊使いの力を感じるわ」
頭を押さえながら、森の方に目をやる。
「アイツ、また勝手に一人で行くなんて…! アンネッテは此処にいてくれ。俺はディオンのもとへ行く」
「私も一緒に……」
「まだ頭が痛むんだろう? 無理はするな」
もう大丈夫だから、と言いたいところだったが、実際、まだ動けそうになかった。
「ごめんなさい……」
謝らなくていいから、とフェイは少し微笑む。
そしてすぐに、森の中へと走っていった。
一見いつものフェイに見えるが、内心、少し焦りを感じていた。
さっきの、あのディオンの苦しがり様が気になる……。
あいつは何事に対しても平然としている奴だから、余計気がかりだ。
苦しんでいるくせに、なのにどうして――。
「どうして、一人で行くんだよ……」
なぜかは分からないが、胸の中がむしゃくしゃし、無意識に舌打ちをする。
首から掛けている、ディオンの力が込められた月の石(ムーンストーン)のペンダントのおかげか、まるで引き寄せられるかのように、足は無意識にそこへと進んでいく。


