「もう出て行くつもりか?」
「ああ。あまりこの国に長居するのは、好ましくないからな」
少し傷の入っている、その不気味な仮面を手に持つ。そしてフェイの顔を見つめた。
ディオンの端正なその顔立ちに、不覚にもどきっとしてしまう。
「き、気をつけて行けよ」
「……世話になった。それじゃあな」
ばたん、と扉が閉められる。
フェイ一人きりになった家の中は、とても静かだった。
どこか寂しい気持ちが、心を覆う。
「ディオン・クロズリー、か……」
冷たい眼差しをした、先ほどのディオンの姿が脳裏に浮かぶ。
見たところ歳は十五、六そうだが、それでも、過去に何人か殺しているだろう。
でなければ、あんなに平然と〝殺す〟なんて言えるはずがない。
「……俺も行こう」
もう会うことはないであろう、その少年のことを考えるのはやめ、フェイもまた家を後にした――。


