『殺してしまえば?』
何も知らない国民にとって、陛下は必要な存在。
だから、殺すなんてことは出来なかった。
けれど……あのとき殺していれば、国民が犠牲になることなんて、なかったはずなのに。
「ディオン、フェイ、あれを見て」
アンネッテがある一点を指差す。
「あれは、墓?」
フェイが呟いた。
どこにでもある普通の丘の上に、いくつもの十字架が立っているのが、目に入った。
「誰かいるな」
ディオンが言う。
「あれは……ビヴァリー氏だ!」
「ダスティの側近か」
あそこへ、と漆黒のケルピーに言う。
答えるかのように、雄叫びを上げた。
「ビヴァリー氏!」
「…フェイさん?」
ケルピーから降り、フェイは彼へと走り寄る。
「なぜフェイさんが、こんな所に?」
久しく見たビヴァリーは、少しやつれていた。
「俺は、アウリスが大変だと聞いて……。あなたこそ、どうしてこのような場所に…?」
悲しい瞳をして、ビヴァリーは土の盛られた部分に十字架が立っている、その質素な墓へと目を向ける。


