「それじゃあ、また出会おう」
そう残して、セリシアは森の中の闇へと姿を消した。
ディオンは短剣をしまい、その場に座りこむ。ぐしゃぐしゃ、と髪を乱した。
「…だから、感情なんて知る必要がなかったのに」
感情なんて余計なもの、知ってはいけなかった。
なのに、少なからず、知ってしまった。
「でも、僕は……」
ディオンの左目がスカーレットに変わる。
「――僕は、セリシアの味方だから」
これ以上、余計な感情を知るわけにはいかない。
紺碧(こんぺき)の空を、ディオンは見上げる。首から掛けていた月の石(ムーンストーン)のペンダントに触れようとしたが、フェイに渡してしまったことに気付いた。
どうして、僕はアレを渡してしまったのだろうか。
唯一の、形見だというのに。
はぁ、と息をつき、目を僅かに細めた。
大丈夫、僕は君を――セリシアを裏切りはしないから。
邪魔者は、殺すよ――。


