世界の終わりに、君は笑う




人間だけでなく、妖精も獣類も、全てのものが眠りに入っている時刻に、一人の少年はむくりと起き上がった。
近くで眠っている他の二人は、まったくそれに気付かない。

ディオンによって抜かれた短剣の刃(やいば)が、月明かりに照らされて、きらりと光る。
鋭い刃先を、フェイに向けた。
それでも彼は、眠ったまま。

「何をそんなに、躊躇(ためら)っているの」

どこからともなく、声が聞こえた。
ディオンは森の方へと目を向ける。

「さっさと殺してしまえばいいのに」

プラチナブロンドの髪に、スカーレットとサファイアブルーのオッドアイ。
額には、漆黒の紋章。

――オッドアイと漆黒の紋章を除けば、ディオンと瓜二つの顔立ちだ。
右目のスカーレットは、まるで燃え盛る焔(ほむら)のよう。
そしてまた、右手の甲にある薔薇よりも紅く、麗しい、精霊使いの証が目に入る。

「ほら、早く殺しなよ」

彼女――セリシアが言う。

「………」

短剣を握る手に、力が込められた。

「今殺すのは、やめる」

その言葉に、セリシアは眉を顰(ひそ)める。

「どうして? そいつは忌々しい人間。そして、僕らを捕まえようとする者だよ」

「……まだ、利用する価値がある」

納得のいかないように、ふーん、とセリシアは呟く。