「まだだ……まだ、駄目だ」
ガハッ、と口から血を吐きだす。
むせるように、何度も何度もその赤い液体は吐き出された。
( ディオン、大丈夫? )
誰かが、心の中で話しかける。
……ああ。
君は大丈夫?
( まだ体中に痛みが走っているけど、なんとか大丈夫だよ )
そうか、良かった。
ようやく胸の痛みが治まりはじめ、ふう、と息をつく。
ああ、どうやら血の匂いで客を招いてしまったらしい。
胸の内で、誰かに言う。
( いける? )
ああ、痛みももう引いてきたしね。
それに――。
ゆっくりと、ディオンは立ち上がる。
茂みの中で光る、数十体のケダモノの目。
唸り声を上げながら、じりじりと茂みから姿を出して来る。
「このところ、あまり戦っていないせいで、体がなまっているからな」
( じゃあ、いい手合わせになるね )
「こんな雑魚ども、すぐ倒すさ」
腰に掛けている短剣を抜く。
そして一気に、ケダモノへと襲いかかった。
片目に短剣を突き刺し、怯んだ隙を見ては喉笛をかき切る。
血飛沫(しぶき)が、ディオンの顔を汚した。
後ろに飛び退き、はぁ、とため息を零す。


