ふとディオンは今日一日、彼女が自分に対する接し方が少し可笑(おか)しいということを思い出す。
……オッドアイの黒猫と出会ったときから、どこか様子が変だ。
何か躊躇(ためら)いを含んでいるかのような、接し方。
まさか――。
「……ッ」
突然、突き刺さるような激しい痛みが胸の中を襲う。
「ディオン?」
無言で立ち上がった彼に、アンネッテは首を傾げる。
「どうしたんだ?」
フェイもまた、ディオンに声をかけた。
「…散歩、してくる」
痛みに耐えている素(そ)振りは、全く見せなかった。
「夜の森は危ない。一人で行くのはよせ」
すかさずフェイが言う。
「…近くに獣の気配は感じない。だから大丈夫だ」
でも、というフェイの声など耳に入れず、ディオンは森の中へと入って行った。
胸元を握り締めながら、森の奥へと進む。
「フェイの奴、本当に…口煩(うるさ)いやつだ……」
はぁ、はぁ、と息が上がっており、額からは汗が流れていた。
がくんとその場に倒れ込む。


