さすが名馬と呼ばれるだけの妖精――ケルピー。
一日走っただけで、アウリスまで後もう半分、という所にまでついた。
「今日は此処で休む」
辺りが暗くなってきた頃、彼ら三人は川のほとりでケルピーから降りた。
三体のケルピーは川の中へ入って行く。
ふと漆黒のケルピーは足を止め、ディオンの方へと振り向く。
( アウリスへ行って、何をするつもりだ )
「邪魔者を殺しにいくんだよ」
邪魔者?
レクス……いや、国王のことか?
フェイは胸の内で呟く。
「……邪魔者は、みんなそこで殺す」
そう、みんな――……。
「ディオン、一体誰を……」
言いかけたが、フェイは口を噤(つぐ)んだ。
自分に向けられているディオンのその瞳が、意味深なものだったのだ。
( 定めに従いながらも、その中で抗おうとするのか )
お前たちには関係のないことさ、とディオンは鼻先であしらった。
( 精霊になれるどころか、人間にすらなれない、哀れな精霊使い )
最後にそう言って、漆黒の姿は川の中へと消えていった。
「ディオン、どういう意味なの?」
アンネッテは恐る恐る訊ねる。
「さあね」
けれどディオンは、何も教えてはくれなかった。


