「あ、あったよ!」
アンネッテが指差す先に目をやれば、太陽の日差しにキラキラと反射している湖面が見えた。
「本当に此処にいるのか?」
〝悍馬(かんば)〟がいるとは思えないほどに、湖周辺はとても静かであり、また心休まる場所でもあった。
「水悍馬(ケルピー)は湖の底にいるのよ。だから水面に出て来てもらわないといけないの」
「へえ、そうなのか」
二人がそんなことを話しているうちに、ディオンはそそくさと湖畔(こはん)へと近寄り、片膝を地面につける状態で屈(かが)んだ。
二人はその様子をじっと見守る。
ディオンは左手の手套を外し、綺麗に巻かれていた包帯もするすると取っていく。
露(あら)わになった精霊使いである証の紅い紋章は、何度見ても麗しいと感じる。
ぽちゃん、と小さな音を立てて、水の中に手を入れた。
すっ、と目を細め、一心になる。
ケルピーと呼ばれし水の精、勇武たるその姿、今此処で見せたまえ――。
胸の内で呟いた、その刹那――湖面の中央に魔方陣が現れた。
蒼色の光が放たれるそれに、フェイもアンネッテも見入る。


