( ディオン、もしかして揺らいでるの? )
誰かが、ディオンの心へと話しかける。
違う、僕は揺らいでなんか……。
胸の内で、彼はその誰かに言葉を返す。
( でも、君の心は不安定だよ )
………。
( あのエルフの言葉のせい? でもね、ディオン。人間がいるせいで、困る妖精だっているんだよ )
一息ついて、誰かはまた言葉を続ける。
( 現にレクスの餌食(えじき)となっている妖精だっている。人間が消えない限り、この世界の平和は戻らない )
…ああ、確かに君の言う通りだね。
人間が掟を破ってしまったせいで、今まで保たれていた調和が、崩れていっている。
人間なんていなければ、この世界が崩壊する危険性なんてなかったんだ。
怒りと憎しみが、ディオンの心を覆っていく。
( そう、それでいいんだよ、ディオン。……今さら人間の味方になるなんて、駄目なんだからね )
その言葉を最後に、誰かの声は途絶えた――。


