｢俺は知ってるぞ。｣


皆が一斉に声のした方を振り返った。


｢徹ちゃん徹ちゃん。陽炎どこ行ったの？｣


私が話しかけるとぞろぞろと徹貴叔父さんを囲むように集まってきた。


｢陽炎くんは旅に出るそうだ。皆が優しいと、この街は良い所だと言ってくれていた。そこに慣れないからと出て行ってしまったんだ。当然だろう。今まで誰も陽炎くんに優しく接する者はいなかったのだからな。このままだと皆を頼ってしまうとも言っていた。俺は頼ってくれても構わないと思ったのだが、陽炎くんはこのままじゃ自立して生きて行けないと言った。だから旅を続けることを許した。皆、俺の自己判断ですまない。せっかく皆が明るくなって街の雰囲気も良くなってきていたのに引き止められなくて。｣


徹貴叔父さんは出て行った経緯を話してくれたが、まだ幼かった私にはよく理解できなかった。


｢徹ちゃん徹ちゃん。陽炎は帰って来るの？｣


不安そうに見上げる私を徹貴叔父さんは私の頭をくしゃくしゃに掻き回し微笑んだ。


｢当たり前だ。きっと帰って来ると信じている。皆信じればまた会える。水桜ちゃんはいい子だから待てるだろ？｣


｢うん！｣


掻き回された髪は不思議と気にならず徹貴叔父さんのいつもと違う明るい声だけが耳に入ってきた。それに答えるように私は大きく、陽炎が帰って来るのを信じて返事をした。


｢皆も信じているか？きっと帰って来ることを。｣


皆返事をしたり頷いたりと様々だったがただ１つ。全員が笑顔だった。きっと帰って来る。この街がこの瞬間にも必ずどこかにいる陽炎を待っている。今の私はこの日から毎日街の境界線へ行くようになった。陽炎がいつかどこからか帰ってくるという直感と期待に毎日胸を踊らせている。