「あははははっ」


「麻鞠は面白いなぁ」


三味線の音と客の笑う声が部屋に響いている


今日の客は中田屋という商家の主人だ


もうすぐ新造出しが決まっているあたしの初めての客になりたいらしく、ここのところ毎夜通ってくれている



遊廓にもしきたりと言うものがあり、初見世前は基本的に新造は客と寝ることが出来ないしきたりらしく今日田中屋はあたしね姐さんである麻鞠が相手をすることになっている



姐さんはプロだ



どんなに嫌な客でも嫌な顔ひとつせず楽しませている


しかしあたしは姐さんみたいになりたいとは思えなかった


あたしだって人間だ
嫌な客にも媚を売れるほどできてはいない



チラりと田中屋を見ると酒臭い体をどっしりと構え、舞を舞う新造に合わせて体を揺らしている


そしてあたしが見ているのに気づいたのか、こちらに目を向けるとじっとりと日暮を見つめた



そんな田中屋に笑いかけてみたものの正直な体には鳥肌が浮かんでいる


“嫌だ…。あんな男に抱かれたくない”



それは日暮の数少ないわがままだった