翡翠の玉座に身を委ね、竜王たる男は酒盃を傾けていた。

 その傍らには、いまひとり、人の形をした臣下が控えている。

「これで、少しは懲りましたでしょう、陛下」

 以前、姉弟を訪ねて、桂桂に追い返された男であった。

 戸口で手を挟まれたことを未だに恨んでいるのか、その声はどこか刺々しい。

「もう二度と、人間めの水路を渡るような酔狂はお止めなさいませ。また鱗が剥がれても存じませぬ」

「珠明ほど、我が妻に相応しい娘御はおらぬと思ったのだがなぁ」

 王は、臣下の声を聞き流して、ぼやいた。

「目を合わせたときには、顔を赤くしたくせに……私のことを好いていないはずはないのだ」

「女性の考えることは、この世で何よりの謎と申します」

 珠明は、竜王の求婚を断ったのである。

 先刻から、男はその断りの言葉を、頭の中で繰り返し思い出していた。