「わたくしは……」

「まさか断るようなことはあるまいね、珠明。県令さまのお達しなんだよ。大丈夫、桂桂のことなら、わたしたちが今までどおりちゃんと面倒を見てあげるさ。なにも心配することは無いんだよ」

 珠明は青褪めた顔で口を噤んだ。

 役人と叔母とを前にして、彼女に選択権など、もともと無かったのである。


「桂桂、桂桂、ごめんね」

 珠明は弟の小さな体をぎゅっと抱きしめた。

 自分が郷を出て県令のもとへ行けば、桂桂は一人でここに残されることになる。

 その生活が今まで以上に辛いものになることは、わかりきっていた。

「姐姐……」

 桂桂は血の気の引いた指先で、姉の背をぎこちなく抱き返した。

 行って欲しくない。

 けれど、珠明の意志ではどうにもならないことなのだ。

 聞き分けねば、姉が苦しむ。

「ぼく、大丈夫だよ。姐姐……県令さまのところに行けば、きっと、きれいな服が着られるよ、おいしいものが食べられるよ」

「桂桂……」

 姐弟は、抱き合ったまま泣いた。