「ですが……わたくしの体を治して頂いて、さらにあのように高価な石まで頂いては心苦しく存じます。あの、せめてお名前だけでもお聞かせ願いませんか。わたくしは珠明と申します。弟は桂桂と」

 男はしばらく考えてから、口を開いた。

「私は、青という者だ。……また会うこともあろう」

 そう言って家を出て行った男を、姉弟はしばらく夢でも見ているかのような心持ちで見送った。

 先に我に返ったのは、珠明だった。

「……水を、瓶に移さなくてはいけないわね。それをしまいなさい、桂桂」

 弟に言いながら、寝具を片付ける。

 床に臥す以前よりも、体が軽いような気がした。

「大哥、姐姐を好きになったのかもしれないよ」

 健康を回復した姉に、余裕を取り戻した桂桂は悪戯っぽく言った。

「ばかね、あんな立派な方に限って、そんなことあるわけ無いでしょう」

 あの方はまた会うこともあるだろうと言ったが、きっと高貴な方の気まぐれに違いない、と珠明は期待しそうになる自分を戒めた。