「……さっきの人が、井戸に落としたんじゃないかしら」

「……井戸?」

 桂桂は無意識に懐の布袋を探った。

「桂桂が持ってきた、きれいな石があったでしょう」

「だめだよ!」

 咄嗟に、そう言っていた。

(あいつが探していたのは、これに違いない)

 そういう確信が湧いたが、それよりも強く、返しては駄目だという思いがあった。

「これを売って、姐姐の薬を買うんだ。だから、だめだよ。絶対、だめ。今日は無理かもしれないけど、明日きっと、これを売って薬を買ってくるよ」

 必死に言い募る弟に、珠明は布団の中で首を横に振った。

 桂桂の気持ちは嬉しい。

「だめよ、桂桂。それは、わたしたちのものではないんですもの……ほんとうの持ち主の所へ、返さなくてはだめよ」

 諭すような静かな姉の声に、桂桂は涙をぐっと堪えた。

「いやだ」

「桂桂」

「やだよ!」

「良い子だから、ね?」

「姐姐……」

 死んじゃいやだ、という言葉を、桂桂は飲み込んだ。