天使の瞳


「ねぇ、千穂?」

「うん?」

「あんな、なんか聞こえへんかった?」


あの耳の違和感。

どーしてもどーしても気になって仕方がなかった。


「んー…なんも聞こえへんよ」

「じゃなくて、あの中に入ってる時やん」

「え?何もなかったけど」

「…嘘やん。電話が鳴ってる音、聞こえてたやろ?」

「え?電話?何も聞こえへんだで。…って言うか止めてよ、怖い事言わんとって」

「え、でも…」

「ちょー、音羽どーしたんよ。疲れてんのちゃう?」

「疲れてへんよ。だって見えたんやもん」

「見えたって何が?」

「誰か立っててん」

「え?何それ。もしかして幽霊とか言うんじゃないやろな」

「……」

「え、ちょっと音羽マジ止めて。何もなかったよ。ってか、ほんま音羽疲れてるんやって」


千穂は少し顔を引きつらせて笑ってた。


あたしが…疲れてる?

そんな訳、ないやん。


だって、おかしいよ、ほんとに。

耳の違和感、この目で見た誰か。そして痛みのないこの手。


「さて、帰るか」


ドアが開いたその音と、晃くんのその声にビクンと身体が震えた。

何かが分からないその恐怖に冷や汗が出る。


エンジンを掛けるタク。その音を耳で感じながらあたしはゆっくり目を閉じた。