天使の瞳


「なー、これでもいいん?」


そう一人の男の先輩が手にしてもってきたのは500㍉のペットボトル。


「つか、それ誰のん?」

「俺の」

「はぁ!?アンタの飲みかけかけるつもりなんっ、」

「だって水道ないやんけ」

「そーやけど…」


先輩がそう呟いてあたしをゆっくり見る。その視線に気づいたあたしは、


「いいですよ」


そう言って少しだけ口角を上げた。

とりあえず、この血だけでも洗い流したい。

もう、今の頭の中はそれだけだった。


タクがその水を受け取って手の平の血を綺麗に洗い流してくれる。

あたしはその光景を見るのは避け、タクの足元をジッと見てた。


「カナリ切れてるな…」


暫く経ってそのタクの声に思わず顔を上げる。


…切れてる?


「…え?」

「ほら、ここ」


タクが掴んでいる自分の手。その手に視線を送ると2センチくらいの切り痕が手の平に痛々しく残ってた。


…何で?

ただ思うのはその疑問だけ。

だって、切った時の痛さなんて感じなかった。今だって痛みなんて何もない。

むしろ、柱に触れた時にヌルっとした気持ち悪い感触。


…あたしの血だったの?