早く出たい。早く出たい。
そう思っていてもあたしの歩く歩幅がもの凄く狭くて、出た頃にはカナリ時間が掛っていた。
「あー、拓斗と音羽やっときたぁー」
出た瞬間、そう耳に飛び入ってきたのは千穂の高鳴った声。
それと同時にピタっと止んだ耳の違和感。
「…って、どーしたん!?音羽!?」
続けて声を上げた千穂の声と同時に駆け寄ってくる足音。
「ちょっと切ってるから何かない?」
タクがあたしの身体をそっと離してそう言った。
あたし…なんも切ってへんで。痛くないもん…
「どーしたん?」
「えっ、大丈夫?」
茫然と立ち尽くすあたしに男の先輩と女の先輩の声が聞こえる。
「めっちゃ血でてるやん」
そう先輩に言われてあたしは懐中電灯で照らされる左手にゆっくり視線を落とした。
落としてすぐ思わず一瞬だけ目を瞑る。
だけどすぐ目を開けて、タクに取られていくその真っ赤なタオルで眩暈がした。
「おっと、危ねぇ…」
フラっとした同時にあたしの身体が後ろに倒れ込む。
その倒れそうになった身体を晃くんが受け止めた。
「音羽ちゃん、大丈夫?」
「…うん」
誰にも迷惑なんてかけたくない。
誰にも心配させたくない。
って思ったあたしは、そう小さく頷いた。



