入って見ればホントに旅館。フロントがあってロビーがあって至って普通の旅館だった。
2人の先輩が持つ懐中電灯がチラチラと辺りを照らし光る。
「…なんや、案外なんもないやん」
どれくらい歩いたか分からない頃だった。
隣に居たタクはそう呟く。
…だけど、あたしは変な違和感を感じた。
耳に違和感を感じる。
どこからともなく聞こえて来た電話の音。微かに聞こえてくるその電話の音に、あたしは左耳を何度か擦った。
「…ねぇ、タク?」
「……」
「ねぇ、タクってば!!」
タクの腕を強く掴んであたしはそう叫んだ。
「うん?どーしたん?」
「なんか電話なってない?」
「電話?」
「うん、なんか聞こえるんやけど」
「え?俺ちゃうで。音消しとるし」
「じゃなくてこの旅館の…」
「はぁ!?そんな事、ありえる訳ないやん。電気も通ってへんのに」
「でも、」
「他の奴らじゃないん?」
タクはそう言ったけど、携帯の着信音なんかじゃなかった。
家にあるような電話の音。
トゥルルー…と聞こえてくる音が耳から離れない。
耳にへばり付いてる様なその感覚にあたしは開いている左手で左耳をギュっと強く握りしめた。



