「ちょ、千穂。彼氏って何!?」
思わず声を張り上げるあたしに千穂はクスクス笑う。
「だって、ああでも言わな音羽、連れて行かれてたで」
「そうやけど」
「嘘も方便ってやつ。ってかな、あたしは晃で音羽は拓斗でいいやん」
「はぁ!?何言ってるん!?ビックリするわ」
そんなクスクス笑い続ける千穂が悪魔に見えた瞬間だった。
「ねぇー、拓斗!?拓斗ってば!!」
海に近づくと千穂は声を張り上げてタクの名前を叫んだ。
その透き通った声に反応したタクはこっちを振り返りボードを抱えたままあたし達に近づく。
髪からポタポタと垂れ下がる海水。それを振り払うように髪を掻き揚げるタクがあまりにも色っぽく見えてしまった。
「何?どーしたん?」
「あんな、さっき音羽ナンパされてたで」
「ちょ、そんなん言わんでいいやん」
慌てて千穂の腕を掴むと、タクの視線があたしに向いた瞬間、スッとあたしは視線を避けた。
「へー…どいつ?」
「ふーん…拓斗、気になるんや」
「気になるっつーか、物づきな奴もおるんやなーと思って」
「はぁ!?何なん!!なんか凄いムカツク」
つか千穂がいらん事言うからそー言うふうになるねん。
みんな空気読めっつーの!!
「で、彼氏と一緒やからーって音羽が断ったよ」
「ちょ、あたし違うやろ。千穂やん」
「うん、あたしやけどな」
「へー、そうなんや。ま、なんかあったら俺でも呼べば?彼氏役ならいっぱいしてやっから」
タクの濡れた手でポンっと叩かれた頭が一瞬冷たく感じた。
少し口角を上げたタクはあたし達に背を向けてもう一度海に入りに行く。



