…携帯が何か叫んでいる。
「ちょっと待って」
服を描いていた四季は、筆を置き、携帯を広げた。
吉野智が映っている。
「何かあった?吉野さん」
『何かあった?じゃねぇ!四季のお母さん、先生に連れて来てもらった。私じゃそっちの状況説明不可能。四季から話せ』
智に代わり、早瀬が携帯画面に映った。
『四季、あんた何やってんの!』
「え…と…。ごめんなさい」
四季も説明に困り、しおらしく謝る。
『ごめんなさいってねぇ…。由貴と忍と涼ちゃんも一緒だって?顔見せな』
「うん。何か話したら画面に映るのかな?これ、僕がムービーを撮っているわけじゃないから、お母さんたちにどう見えているのかわからないの。由貴、忍、涼ちゃん、僕の携帯にでも、自分の携帯にでもいいから、何か言ってみて」
「親父?俺、無事だから」
「先生、早瀬さん、心配かけてごめんなさい」
「智、ありがとう」
由貴と忍と涼が四季の携帯に向かってひとことずつ話すと、3人の顔が表示されたようだった。
隆史は元気そうな由貴たちを見て心底安心したのか「由貴くーん」と気の抜けた声を出した。
『由貴くんの部屋に涼ちゃんの鞄はあるのに、ふたりの姿だけ忽然とないし。心配しましたよ。ところでそこは何処なの?』
由貴は真面目な顔になる。
「親父。俺、小説書いてる。オリジナルの。その小説読めばわかる。小説は俺の机の上にあるはず。誰も持ち出していなければ」
『あの、由貴くん、その状況と由貴くんの小説と何の関係が…?』
「俺も涼も四季も忍も、ある人物によって小説の中に飛ばされたから。つまり、俺たちは今、親父たちのいる世界にはいない」
『──』
隆史も早瀬も智も息を呑む。
『由貴くん…。そんなことって』
「あるんだよ」
由貴は言い切った。

