不思議電波塔




 早瀬は通話を終えてから、智に内線の番号を教えておけば良かった、と思い至る。

 料亭の電話は外線2つ・内線2つひいている。

 外線は一般のお客様対応または業務対応のためのもので、内線は従業員対応または業務以外で何かある場合の緊急の連絡先である。

 吉野智がかけてきたのが外線の番号だったのは、電話帳に載せているのは外線の方だけだからだ。

 早瀬自身も携帯は持っているが料亭にいる時は内線の方が取りやすいため、四季にはそう言っているのである。

 それにしても。

「どういったわけなのかねぇ…」

 早瀬はため息をついて、バッグから携帯を取り出すと、隆史の自宅にかけた。





 21時過ぎ。電話が鳴り出した。隆史は不安げな心持ちでそれを取る。

「はい。綾川です」

『ああ、隆史?あたし。たった今、あんたの言ってた吉野さんて子から電話があった。四季と由貴、涼ちゃん、忍、一緒にいるらしい』

「は…?」

 隆史は呆気にとられ、ぽかんとする。

 早瀬は智が話した内容をそのまま伝えた。

『詳しいことがわからないってのが不安ではあるんだけどね。でも四季が家に連絡入れることを気にすることが出来るような状況なら、そう心配しなくてもいいのかと思ってさ』

「……。でも、早瀬」

『何だい?まだ何かあんの』

「涼ちゃん、由貴くんの部屋に来てから、そのままふたりで何処かに消えたような様子だから…。由貴くんの部屋に鞄があるんだよ。涼ちゃんの。…変だと思わない?」

『……。そりゃ変だね』

 由貴の部屋がその様子で、それで四季と忍のふたりが何故一緒なのかも不可解である。

「僕は涼ちゃんの担任でもあるし、涼ちゃんの親御さん心配させるのは責任感じるし──。一応、もう少ししたら帰ると思います、って連絡だけはしたんだけど」

『あー何か変な状況だね。とりあえずあたし、今日は早く上がってもいいって言ってもらってるから。残している仕事片づけてくる。隆史、あんた、今から吉野さんに電話かける?うちの内線とあたしの携帯番号、念のため吉野さんに教えておいて。連絡したい時、身動き取れないんじゃ困るわ』

「わかった」

 隆史は受話器を置いた。

 ──長い夜になりそうだ。



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