携帯画面の向こうの由貴たちの様子を見て、智もほっとする。
「意味はわかんねーけど、合流出来たみたいだし、これで四季の親にも先生にも心配させない程度の報告くらいは出来ますかね」
受話器を取り、智は料亭「高綾」に電話をかけた。
あと数秒で21時になるというところで、電話が鳴り始めた。
隆史にかけようかと電話の近くにいた早瀬はワンコールを待たず、電話を取る。
「はい。料亭『高綾』でございます」
電話をかけてきた相手は、早瀬の予想していなかった人物だった。高校生くらいの女子の声。
『夜分すみません。四季くんのクラスメイトの吉野智といいます。四季くんのお父様かお母様はいらっしゃるでしょうか?』
吉野智と聞いて、隆史が電話をかけた子だ、と早瀬はすぐに気がついた。
「私が四季の母です。何か…?」
『四季くん、まだ帰ってきてませんよね?四季くんから連絡があったのですが、四季くん帰りが遅くなるそうなんです。綾川由貴くん、揺葉忍さん、桜沢涼さんと一緒です。電波が届かない場所にみんないるみたいで、でも偶然、私とだけ連絡が取れることがあって、それで私が四季くんの家に電話を』
早瀬は胸を撫で下ろした。詳しい状況はわからないが、無事なのだ。
「お電話、ありがとうございます。心配しておりましたので」
『はい。四季くんも家に連絡が入れられないのを気にしていたので。お伝え出来て良かったです。私は今日は零時過ぎまでは起きているとは思いますので、また何かあったら連絡します。あの…先生から由貴くんのことで電話があったのですが、私から先生に電話をした方がいいでしょうか?』
気の回る子である。早瀬は丁重にそれは自分の仕事だから心配しなくていいと智に言った。
「身内のことで、他所様にご迷惑をおかけするわけには参りません。向こうにはこちらから連絡を致します」
『そうですか。でも私には気を遣わないでください。私、四季くんの友達なので。ご心配でしたら、電話ください』
吉野智は明るく言い、では失礼します、と電話を切った。
*

