ムービーが繋がったままの携帯のそばで、智は電話帳を広げていた。
四季の家は料亭と旅館を経営している。そこにかければ父親か母親がいるはずだ。
「しっかし『由貴の小説の中』って、四季の親にどー説明すりゃいいんだ?まあ、連絡入れないよかましだろうけど。料亭『高綾』…『高綾』…あ、あった」
電話をかけようとしたそばで、再び携帯が瞬き始めた。
「はいはい。何だよ、何かあったのか、四季?──って…は!?忍!?」
──画面の向こうには今度は揺葉忍が映っていた。
『智?智なの!?嘘…繋がったみたい。由貴、涼、智に繋がったわ』
「って、おいおいおい!私にわかるように話せ!何なんだお前ら、会長も涼も一緒か!?いったい何処にいんだよ!」
『え…と、その…。由貴の小説の中』
四季と忍とふたりして同じような説明をするのに、智は頭を抱えた。
「あー…何か今日一日で、十年分の夢見てるって感じだよ」
『ご、ごめん…。でも本当なの。信じて』
「信じるも信じないも、実際にこうして話してんだから本当のことでしかないだろ…って今日この台詞言うの二度めだぜ。一度めは四季に言ったんだけど」
『え?四季と話したの?』
「はいよ。それも今しがた。忍さんの王子様は本物の映画ばりに見事な司祭のなりをしてまして。白馬に乗ってたぜ。ははははは」
忍が深刻に難しい顔になる。
『四季が司祭の…?白馬…?』
「んなの、見たら百聞は一見にしかずよ。四季も由貴の小説の中にいるって言ってたから、会えるんじゃねえ?」
話していると、忍の周囲が真昼のように明るくなった。
光が射して来る方角を仰ぐ。
人を乗せた天馬と、金髪碧眼の少年が、ふわりと忍たちのもとに舞い降りた。
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