不思議電波塔




 海に敷かれた光の道を歩き始めた由貴たちだったが、やがて海の様子がおかしくなってきた。

 空から砲弾のようなものが降り始めたのである。

 次から次へと海へ堕ちてくるそれを見て「涼」と由貴が涼の手を強く握った。

 ユリは忍の手を握る。

「『星』のなり損ないが降り始めた。道から逸れないよう気をつけて」

 フェロウは険しい表情であたりを窺う。

 それを降らせているのは『尾形晴』の気だ。晴の気を呑み込んだ海が、誰か倒れる者はないかと待ち構えている。

 最初に歩けなくなってしまったのが桜沢涼だった。

 成績優秀な涼だが、唯一体育だけは苦手なのである。身体もあまり強くない。

 海から来る濁った気にも当たって気分が悪くなってしまったのか、海の上に座り込んでしまった。

「ごめ…。会長」

「しゃべらないで」

 由貴は涼を抱いて座り込む。

 フェロウが歩いて来た道を振り返った。

「酷い気だな。何てものを落としやがるんだ、あの野郎」

 忍はフェロウとユリを見る。

「何か方法はないの?」

「俺は『桜沢涼』の状態が悪くならないように、しばらくの間なら時間を止めることが出来る。でもその力を長く作用させることは出来ない」

「ぼくは、戦うための力は備えている。でも、涼を元気にする方法は知らない」

「……」

 忍は涼を見て切ない気持ちになった。

 何も出来ない。何か出来ないのだろうか?

 無力感に襲われそうになり、忍は目を閉じる。

 何か──涼を元気にしてくれるもの。

「そうだ。智に連絡を取ってみよう」

「え?」

 由貴がびっくりして忍を見る。

「連絡って」

 由貴も涼も忍もそれぞれの携帯でさっき試してはみたのである。『あちらの世界』に繋がるのか。

 だが繋がらなかったのだ。

 忍は元気づけるように言った。

「もう一度試してみよう。もしかしたら今度は繋がるかもしれないし。自然に繋がるなら、次元を歪みを作ることにはならないんじゃない?だって、繋がる条件があったってことだもの」

 フェロウがそれに頷く。

「確かにそれで自然に繋がるのなら、俺もとやかくは言わない。試してみたらいい」



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