智の声は通話が繋がったように四季の携帯で響いた。
「?」
四季は携帯を取り出してみた。画面を見て驚く。
風呂上がりの吉野智がいるではないか。
「よ、吉野さん!?」
『吉野さんって、やっぱお前四季か!?そーだな!?何だお前その格好。何やってんの。何処だよ!!』
「え…えーと…由貴の小説の中」
『…………………………………………………』
長い沈黙に、四季がどう説明していいのかわからないといった表情になる。
「ごめん。でも本当だから信じて」
『信じるも信じないも、実際こんなふうに話が出来るんじゃ、本当のことでしかないだろ』
「うん…。吉野さん、今、僕ひとりなんだ。忍と楽器店で楽譜買って、その帰り道に襲われて、僕だけこの世界に飛ばされたの。だからそちらが今どうなっているのかわからない。吉野さんは何ともない?」
『何ともねーよ。襲われて飛ばされたって…。まあ生きてんならいいんだけど。それよりさ、ついさっき先生から電話があった。由貴と涼の様子聞かれたんだけど。どうも、会長は家にはいないらしい』
「…そうなんだ」
四季の心配そうな表情に智は励ますように言う。
『わけはわからんが会長たちの安否の確認だな?お前は大丈夫なんだな?』
「うん。家に電話が繋がらなかったから連絡入れてないんだけど、吉野さん、お願い出来ない?」
『よし。任せとけ。──って、私の携帯はそっちのムービーつきっぱなしなのか?操作キーがきかないんだけど』
「それは僕にもよくわからない。気がつくと話が出来るようになってたから。普通の回線の繋がり方ではないと思う」
『オーケー。じゃ、私の携帯はそのままにしておいて、自宅の電話で連絡してみるわ』
「ありがとう」
『気にすんな。身体、気をつけろよ』
四季は携帯を閉じる。
吉野智の存在がとてもありがたかった。
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