不思議電波塔




 水辺には人が集まる。人はそこで漁をしたり、洗い物をしたり、身体を浄めたりする。

 海沿いも歩いているうちにそういった集落や港らしい場所にたどり着いてもいいはずだった。

 ところが、歩いても歩いても、さっきからまったく景色が変わらないことに、由貴たちは気づいたのである。

 先に歩みを止めたのはフェロウだった。

「──待て。少し様子が変だ。ここはさっき通ったところじゃないか?」

 ユリがあたりを確認しながら冷静に答える。

「フェロウの言うこと、当たってる。ここ、さっきも通った」

「どうして?真っ直ぐ歩いているのに」

 実際に歩いてはいるので足に疲労感はある。涼は困ったように由貴を見た。

 由貴は歩いていて感じたままの感覚を言葉にした。

「回し車ってあるよね。回し車の外も歩こうと思えば歩けるんだけど、何らかの力で回し車の外には行けないように八方塞がりにされている感じ」

「回し車ね…。ハムスターなら可愛いけれど」

 忍が海の方を見た。

「海の向こう、灯りが見えるわ。人がいるのよ。この海岸線をずっと歩いて行けば普通ならたどり着けそうなんだけど…回し車のようになっているんだとしたら意味がないわね」

「心の問題」

 ユリが淡々と言った。

「先に進めないのは、たぶん、由貴の心が綺麗過ぎるから。真水のように。でも生物はいろいろなものが混ざったところが棲みやすい」

「清い水には魚は棲まないってことか?」

 フェロウが言い、ユリが「そう」と答えた。

「魚、というのはたとえの話。真水のような由貴には雑念や想念は近づきにくい。綺麗過ぎて現実的にいただけないから。『尾形晴』のような物好きや何らかのメリットがある人間は由貴を浸食することを楽しんだりもするけど、生きるだけで精いっぱいの雑念や想念はそこまでしようとは思わない。たぶんに由貴を拒絶する。拒絶が起こると、想念に渦巻いている世界の中に、一ヶ所だけ、回し車のような構造の聖域が出来ることも考えられる」