風のように歌っている精霊の旋律。聴こうと思えばその歌は聴こえ、意識をしなければ心を波立たせない心地よさ。
それは悪意を持った暗雲や泥沼のようなものとは、一見同じ自然のように見え、まったく別物であった。
(この世界の何処かに忍が)
あちらの世界にいた時は感じたことのないような気分で四季は忍のことを考えた。
この暗雲や泥沼に、喰らわれてないといい。悲しんでいないといい。
混沌の世界にあり、悲嘆に取り憑かれると、その者は泥と化してしまう。
王宮の窓から見渡せる都は、悲しみの海に沈んでいるように見えた。
ユニスやイレーネといった希望を心に持つ者がいて、なお、澱みから抜け出せない想念。
四季は「忍のことを話す」とユニスとイレーネに言った。
「忍がこの世界にいるのなら、力になると思う。忍は僕の存在を立証できる存在だから。そして僕と忍がこの世界に存在するのなら、この世界の澱みは生まれ変わる。希望によって」
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