不思議電波塔




 こんなに確かに「存在」というものを語る人を四季は見たことがない。

 イレーネがそう語るというのは、由貴自身が心の何処かでそう考えている、或いは考えたことがあるからだろうか。

 嬉しい言葉だった。

「イレーネがそう言ってくれると由貴がそう考えたことがあるのかなって思えて、嬉しい。『確かなものなど何処にもない』と言葉にする人は多いけど、僕は綾川四季として生まれたなら、綾川四季として生きたい。自分にはないものを持っている人を見ても、僕がその人になれるとしても、僕はその人になろうとは思わない。簡単に人にとって代わることで得られる幸せなんて、幸せだとは感じられないと思う」

 はっきり言葉にした瞬間、四季の身体がふわりと光を帯びた。

 窓の向こうに広がる低く唸るような暗雲から光が射し始めた。

(何者だ何者だ邪魔をするな)

(俺達の居場所を横取りするな)

 ゴロゴロと雲の向こうで雷鳴が業を煮やしている。

(神官風情が。正義を気取るか。正義とは何だ。何だ。何だ。綺麗事も茶番劇も食べ飽きた。さあ楽しませろ。何をくれる?何をくれる?)

 気分の悪い念だったが、四季は音楽だと思うことにした。凜と言い放つ。

「僕は綾川四季だ。神官とはお前たちが言ったことだろう。誰彼構わず言葉で脅し、反論しようとする者に意趣返しか。借りる者と遊び相手を間違えてはいないか?」

(ははははは。間違えているのは貴様だよ。間違いに場違い、退場しろ!退場しろ!退場しろ!)

「そこで大合唱か。それ以外に楽しみがないのなら、歌っているといい。僕は僕の音楽を紡ぐ。殺戮の歌は聞き飽きた」