食事の皿が片されて、グラスに注がれた飲み物に目をとめた時だった。

 それまで、ユニスにもイレーネにも話すことが出来ず、胸にしまいこんでいた心配事がグラスに映し出されたのである。

 見えたのは、忍の姿。

「──…」

 四季は息を呑み、グラスを凝視する。

 触れると幻のように消えてしまう気がして、触れることが出来なかった。

 あたりを見回す。周囲の人がグラスに映っているわけではない。

 偶然に忍が映し出されるようなものは、あたりには皆無だった。

「どうかなさいましたか?」

 ユニスに尋ねられ、四季は「あ…」と視線を上げる。

「グラスに人が映しだされることって、あるの?」

「はい。でもそれは特定の状況に限ります。距離があるもの、または肉眼では見ることの出来ないものを遠視する時だとか。普通は水鏡を使うのですが、飲み物の入ったグラスなどでも遠視は可能です」

「誰かが映っているの?」

「うん…。僕の彼女が」

 四季はそっとグラスに触れてみる。忍の姿は消えなかった。

 グラスに映る忍は誰かと話しているようだった。

 イレーネが四季のグラスを覗き込む。しかし、イレーネは首を振った。

「私には見えない。ユニスは?」

 ユニスも四季のグラスを覗き込んで、やはりイレーネと同じ反応をする。

「私にも見えません。四季だけが見える条件を満たしているのか、何か理由があるのだと思います」

「そう」

 四季は少しがっかりしたように肩を落とすが、携帯を持っていたことを思い出す。

 ユニスとイレーネに忍の写真を見せたらもしかしたら見ることの出来る条件になるのではないか。

 四季は携帯を取り出すと、ユニスとイレーネに見せてみた。

「これ。僕の彼女」

 ユニスとイレーネは携帯画面を覗き込んで小さく歓声をあげる。

「何?これはカメラ?」

「携帯電話。カメラの機能もついているから、それで撮ったの」

「すごいものがあるんですね」

「すごいって言うと、ユニスたちの世界の方が僕にはすごいんだけど…。魔法なんてないし。だからこういう魔法にとって代わるようなものを作る技術が進化するのかと思うんだけど」