「──遅いね」

 四季の母親である早瀬が時計を見た。20時を回っている。

 いつもなら18時には帰ってきているはずなのだが──。

 電話しようかと思い始めたところで「早瀬さーん」と呼ばれた。

「お電話。隆史さんから」

 隆史は早瀬の双子の兄である。

 ああ、由貴の家か、と思いながら、早瀬は電話口に出た。





「はい?隆史?」

『ああ、店が忙しいのにごめん。うちの由貴くん、そっちに来てない?』

「え?来てないよ。四季も帰って来てないんだけど。あんた、何か知ってる?」

『いや。四季くんも帰って来てないの?』

「そう。おかしいね。ふたり一緒にいるんだとしても、電話くらいあってもいいはずなんだけど」

『……。早瀬』

 隆史の声は普段の陽気なそれではない。緊張感を帯びている。

「何?」

『僕、由貴くんと四季くんの携帯にもかけた。由貴くんも四季くんも彼女と一緒なのかと思って、涼ちゃんと揺葉さんの携帯にもかけた。だけど、4人とも電波が届かないところにいて、携帯に出てくれない。手の打ちようがなくなって、4人のお友達の吉野智さんの携帯にかけた。そしたら、吉野さんは自宅にいて、由貴くんたちとは一緒にいないって』

「……」

『早瀬はどう思う?』

 神経は図太い方だと思っている早瀬だったが、それを聞かされて、頭の芯が冷える気がした。

 四季は身体は強くない方だ。だから無理をして倒れることのないように、何かあれば連絡をするように言っている。それできちんと連絡はしてくる子だ。

 それがないというのは──。

「21時まで待つ」

 早瀬は冷静になるよう自分に言い聞かせながら言った。

「それまで連絡がなければ、あたしからそっちに電話する」

『──わかった』

「隆史。あんたもやたら心配するんじゃないよ。その吉野さんて子に心配させるような話し方してないだろうね?」

『うん。吉野さんには、今日由貴くんと涼ちゃん、ふたりで何処に行くか言ってなかった?って聞いてみた』

「デートか何かで遅くなるってのはあり得るからね。まあ無難な聞き方だね。それならいいんだけど」



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