マウスで操作しながら、画面表示の情報を切り換える。
ブレて繋がりが悪い。
「ふん…。あれだけ念入りにしたのに、こちらの掌中には堕ちもしないって?ああ、由貴ってそうだよねー」
堕ちて悲嘆にくれているなら、画面にクリアに表示されるはずだった。
それは晴の持つ能力と親和性があるからだ。
電波の繋がりが悪いのは晴の想念と由貴の想念の相性が合っていないことを意味する。
「本性の部分でこれだけ繋がりの悪い人間ってどんだけだよって言いたくなるね。ああ、神様か?まあ、それならそれで、お手並み拝見ってのも悪くはないね。神様って何?って聞きたいよね──」
晴の手元には由貴の小説のノートをまるまるコピーした、ノートがあった。
ただそのままノートをコピーしたのではなく、それ自体が由貴の小説のノートと同じ時間経過で同じように変化して行くつくりになっているのだ。
従って、由貴が小説の続きを書けば、晴のノートにもその続きは自動的に記録され、晴が小説の何処かに修正を入れれば、それは由貴のノートにも反映される。
晴は由貴の書こうとしていた小説に、以下の内容の文章を続けていた。
清らかな精霊達のうたう歌に、怒濤のごとく押し寄せる虚無の波が訪れた。
虚無に引き摺り込まれるのを嘆き悲しむ者達よ。
お前たちの感性こそ間違ってはいないか?
この世に確かなものなど、何処にもないのだ!
さあ歌え歌え歌え、滅びゆくものの歌を。
王子を導く者たちは、混沌の中に放り込まれ、のたうち回るだろう。
それでも助けを求めるか。求めるか。求めるか。
求めるならば自ら立て。王となれ。
助けを求めるその姿を見て嘲笑う者もいるのだ!
無抵抗のまま死にたがる者など晴には何の価値もなかった。死にたいなら死ねばよい。この世界に合ってはいなかったのだから。
その者にとってはそれが幸せだったのかもわからない。
死にたいものの意志を何故理由もなく咎める奴がいる?
それこそ心無き者の見せかけばかりの憐憫だ。
その者が死にたい者の理由を背負ってくれるわけでもないのに。

