忍は何とか理解して…ふと涼が沈鬱な様子でいるのに気づいた。
「どうしたの、涼」
「うん…。会長の書いた小説、消しゴムで消したの、尾形くんなのかなって考えてた」
「消されてたの?」
由貴が頷いた。
「それも変な消され方なんだよ。普通の人間がこんな消し方出来ないんじゃないか?っていう。ああいう消し方が出来るなら、俺が小説書いているそばからでも、消すことも出来ると思う」
「何それ…」
「涼、不安なの。尾形くんが、涼たちを物語の世界の方に飛ばしたかったのは、続きの物語は尾形くんが好きなように書けるからだったんじゃないかって」
「──…」
可能性は、なくはない。
が、フェロウは「今はそこまで考えなさんな」ときっぱりと言った。
「『書き手』と『描き手』の両方を不要にしちゃったら、それはまるっきり別の物語だね。よっぽど綾川由貴と綾川四季の個性を理解してるんでもなければ、続きの物語として軌道に乗るはずがない。コピーと創造力は別物だ。こんな不安は考え出したらキリがない。どうせならこっちで物語を書いて本物にしてやるくらいの気持ちでいろよ。本来の書き手はここにいるんだし」
話をしているうちに、各々が『こちらの世界』の理解をしはじめたのか、色がなく広がっていただけの地面は、色彩がはっきりしてきた。
何もなかった景色も、いつのまにか、現実的なものを帯びはじめた。
由貴たちは夕暮れの海辺を歩いていた。寄せては返す波の音。
沈んでゆく夕陽の色が空いっぱいに優しい広がりを魅せている。
澱んだものからは抜けきっていた。
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