忍は困ったように言った。
「伝える方法だけはあるけど、それはそれで混乱が生じる恐れがあるからいけないってこと?」
「そう。伝えるにしても、伝える人間は選んだ方がいい。なるべく、このことを知っても、むやみやたらに心配したりしない度量のある人間で、信頼できる奴」
「うちの親父はダメだな…。伝えたら伝えたで、余計、心配しそう」
由貴がため息をつく。涼が「智は?」と友人の名をあげた。
吉野智。
由貴、涼、忍、四季と仲が良い。涼たちの同級生である。
「そうね…。智は比較的こういうことに動じない人ではあるけど…でも、由貴も涼も四季も私もっていうと、さすがに智もつらいんじゃないかしら」
忍が答える。フェロウが「伝えるならあと1人までならいい」と言った。
「その『吉野智』がひとりで抱え込まないように、きちんと話が出来る奴。で、こちらの事情を察してくれる奴。出来れば、こういった世界に通じている奴がいい」
「こういった世界って?」
「夢の世界さ。書く喜び、描く喜び、表現する喜び、そういった創る喜びを知っている奴。抽象的な物事に反応出来る感性の奴じゃないと、許容範囲超えて話をしても無駄になる」
忍が「まだよく把握出来ないんだけど」と言った。
「『こちらの世界』というのは?」
答えたのはフェロウだ。
「ここは『綾川由貴の書いた物語の世界』に繋がっていると思う。おそらくだが。が──完全に繋がるには『綾川四季』という人物が今のところ足りない。今、俺らがいる世界は、あちらでもなく、完全に物語の世界に入っているのでもない、不安定な世界だってことさ。ただ足場がしっかりあるってことは、綾川由貴の構想した世界にきちんとした足場があるってことだ。歩けるような場所ってだけでも良かったぜ。歩く時は泥と穴に気をつけろよ。尾形晴の念に掻き回されているかもわからん」

