由貴の頭から取り出してきた靴に、由貴も涼も忍も「???」の表情になっている。

 ユリが説明した。

「記憶は時空を渡るゲートになる。由貴の『玄関に靴がある』記憶が確かだったから、ぼくが靴を運んできただけ」

「え?じゃあ、ここにある俺の靴も涼の靴も本物?」

「本物。コピーをすると時空がさらにおかしくなる。『尾形晴』はコピーをする。ぼくはコピーをしない。そういうこと」

 フェロウがユリについて言い添えた。

「ユリの姿は『揺葉忍』なんだが、コピーじゃないんだよ。ややこしいけど。ユリがこの姿なのはユリを遣わした奴の意図があるってこと。ユリのせいじゃない。あと、ユリは『尾形晴』みたいに姿を変えることはない」

 それで由貴と涼と忍は納得したようだった。

「そろそろ、親父が家に帰って来る時間なんだけど…。靴がなくなるの見たらびっくりするんじゃないかな」

 由貴が言うと、フェロウが「そこなんだよ」と指摘する。

「あちらの世界では、そう物が消えたり現れたりするってことはない。だから、あまり頻繁にそれがあると、それを見た人間の間で混乱が起こる。時空にも少しずつ影響あるし」

 ユリは淡々と言う。

「こんなところを靴を履かずに歩く方が危険。実際に由貴たちは時空を飛ばされているんだから、向こうに戻れるまでの条件を揃えるまでは帰れないし、由貴たちの周りの人間が、由貴たちがいなくなったことに気づくのは時間の問題」

「あの…。置き手紙を残して行くのはダメ?ユリちゃん」

 涼が思いついたように言う。

「会長と涼と忍ちゃんと…それに四季くんもいなくなっているんだとしたら、何事かということになると思う」

 フェロウは腕組みをする。

「気持ちはわからんでもないんだけどね。あんだけ派手に街頭で『尾形晴』が離れ業使っていたら、そこそこの騒ぎにはなってるだろう。その場に居た俺らの姿を見た人間だってひとりやふたりじゃないんだろうし。それで一部の人間が事情を知っていて慌てない騒がないじゃ、この事情に通じているんじゃないのかって疑われるって話」